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東京地方裁判所 昭和41年(むのイ)329号 決定 1966年6月08日

被告人 小泉勝之助

決  定 <被告人氏名略>

右被告人に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件(昭和四一年五月一八日公訴提起)につき、昭和四一年六月六日東京地方裁判所裁判官がなした保釈許可決定に対し、検察官から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

本件申立の理由は検察官作成の準抗告及び裁判の執行停止申立書記載のとおりであるから、これをここに引用する。

記録によると、被告人は銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件で勾留中であるところ、昭和四一年五月三一日弁護人から保釈請求がなされたが、同年六月六日東京地方裁判所裁判官が、保証金額を金二〇万円として保釈許可の裁判をなしたことが明らかである。

そこで、保釈の事由があるかどうかについて判断するに、本件は、被告人が昭和三九年二月中旬頃より同年四月一二日頃までの間に、当時の被告人の居宅等で拳銃(コルト25口径オートマチツクその他)五丁と実砲一二〇発位を所持したという事実につき逮捕勾留がなされ、捜査の結界昭和四一年五月三日被告人居宅の庭先から、拳銃五丁実砲三三発が差押えられ検察官は、同年五月一八日右勾留事実のうち拳銃二丁についてのみ公訴を提起したことは記録上明白である。検察官が、差押えた拳銃実砲のうち、二丁についてのみ公訴を提起し、他のものにつき、公訴を提起しなかつたのは、被告人が、三九年当時所持していたものと差押物との同一性の裏付けが、認められないとしたが為であり、起訴していない拳銃三丁並びに、実砲三三発が勾留の犯罪事実の物と同一であるかどうかは、公訴された事実と密接かつ重要な関係にあるところ、刑事訴訟法第八九条第四号にいう罪証隠滅のおそれのなかには、公訴事実そのものの罪証隠滅ばかりではなく、それと密接かつ重要な関係にある事実についての証拠隠滅をも含んでいるものと解すべきであるから、進んでこの点につき証拠隠滅のおそれの有無につき検討する。

一件記録によれば、一、本件拳銃並びに実砲の受授には数人が関与していること、二、三九年当時から、右差押時点までの間に拳銃等が組織内を転々としていること、三、関係人の供述が一貫せずかつ齟齬していることが認められるが、これらの点に徴すれば、被告人が、その供述を変更し、あるいは関係人に働きかけて供述を変更させることも充分に考えられるのであるから、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると言わなければならない。

もつとも被告人は、差押えられた拳銃と実砲は三九年当時所持していたものと同一であると自供しているのであり、一応自白の態様をそなえているが、被告人に拳銃を世話したという田々辺裕康の供述によるとその中にはコルトオートマチツク32口径のものがあつたということであるが、それが差押物の中にはなく、又実砲も百数十発あつたと言うが、それが三三発に減じていることなどからすれば被告人の供述に対する信用度もそれほど高いとは言い得ないのであつて、このことからして、罪証隠滅の疑いなしとはなしえないのである。

以上のような理由で、本件は、刑事訴訟法第八九条第四号にあたるから権利保釈の対象とならないものである。そこで裁量保釈の余地の有無につき検討する。本件は、単なる素人の拳銃不法所持とはその趣を異にし、表面上は解散したとはいうもののいまだにその組織と勢力を有する暴力団内部の事件であり、事案の究明は明確且詳細になされる必要があるから、今被告人の身柄を保釈することは、当を得たものとは言い難い。

よつて被告人の保釈を許した原裁判は、失当であり本件準抗告は理由があるものと認めるから、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 津田正良 近藤繁雄 森直樹)

保釈許可決定に対する準抗告及び裁判の執行停止申立書<省略>

別紙<省略>

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